
前編では、旧市原重治郎邸の歴史や建物の魅力、そしてご家族が日々手をかけながら守り続けている様子をご紹介しました。
後編では、オープンガーデンを通じて生まれたさまざまな出会いや、この家に寄せられた思い、そして旧市原重治郎邸のこれからについてお届けします。
「これ、私たちだけじゃもったいないね」
家族で眺めた夜桜をきっかけに、少しずつ地域へ開かれていった旧市原重治郎邸。
オープンガーデンを始めてみると、思いがけない出会いが待っていました。
家を開いて初めて知った「家の記憶」



オープンガーデンには、建物や庭を初めて見る人だけでなく、この家にかつて来たことがある人も訪れます。
「子どもの頃、ここにお邪魔したことがあります」
そんな話を聞き、ご家族自身が初めて知る家の歴史もありました。
「オープンガーデンをやらなければ、こちらも知らないし、相手もこちらを知らないままだった」
家を開いたことで、地域の中に残っていた記憶が少しずつつながり始めたのです。
この家を見て、涙ぐんだ人



なかでも印象に残っているのが、ある女性との出会いです。
長く暮らした自宅を取り壊すことになり、寂しさを抱えていたという女性。
旧市原重治郎邸を訪れ、「残してくれてありがとう」と涙ぐんだそうです。
ご家族は、家そのものを残せなくても、残したいと思った気持ちや、そこで過ごした思い出が自分の中にあることが大切なのでは、とお話ししたといいます。
別の日には、昔の実家を思い出し、長い時間、ご家族の思い出を話される方もいました。
古い家には、その人自身の記憶を呼び起こす力がある。
オープンガーデンを通じて、ご家族もそんなことに気づいていきました。
子どもたちの「これ、いい!」



大人とはまた違う反応を見せるのが、子どもたちです。
畳の部屋へ入ると、うれしそうに歩き回ったり、昔のものを見つけて「これ、いい!」と声を上げたり。
ご家族は、子どもたちがこうした家に触れることは大切なのではと考えています。
古いものを知らなければ、その子にとって、心地よいか、そうでないかを感じることもできません。
もちろん、古い建物をすべて残せるわけではなく、安全性や費用、災害への備えなど現実的な問題もあります。
そのうえで、オープンガーデンが「知る」「体験する」機会になればと考えています。
人が集まることで、新しい出会いも



旧市原重治郎邸を開くようになったことで、運営を支えてくれる人たちとの縁も生まれました。
古民家好きのボランティアの方々は、オープンガーデンで来場者を案内したり、ときには庭仕事を手伝ったりする頼もしい存在です。
さらに、六角橋周辺で活動するお花の先生との出会いもありました。
初めて訪れた後、
「この空間に花を生けさせていただきたい」
という手紙をいただきました。
現在はオープンガーデンに合わせて洋室や玄関などに花を生けてくださっています。
「うちは本当に、お手紙から始まるんだな」
とご家族。
考えてみれば、今回の取材も、一通の手紙から始まりました。
「地域に親しまれる存在になれたら…」

ご家族が家を開く背景には、もうひとつの思いがあります。
旧市原重治郎邸は、横浜市の歴史的建造物として認定され、保存のための支援も受けています。
だからこそ、ただ家族だけで守るのではなく、地域にも還元していきたい。
そして、
「地域に親しまれる存在にならなければ、残っていかないのではないか」
とも考えています。
「あそこに何か古い家がある」ではなく、「白楽には、旧市原重治郎邸があるよね」と地域の人に思ってもらえる場所へ。
オープンガーデンは、そのための一歩でもあります。
「活きた家として残していきたい」

では、この家をこれからどうしていくのでしょう。
慈子さんと治郎さんから聞いた言葉で、特に印象に残ったものがあります。
「ここは活きた家として残していきたい」
博物館のように、ただ保存して見てもらう場所にしたいわけではありません。
カフェや宿泊施設などへ大きく用途を変えることが、今のところ一番の目的でもありません。
人が訪れ、座り、お茶を飲み、この家で過ごす。
そんな「家だからこその体験」を残していきたいと考えています。
今後は、建物を実際に使ってもらう方法や、空間の貸し出しなども含め、さまざまな可能性を探っているところです。
答えを決めずに、守り続ける

もちろん、これから先のことが決まっているわけではありません。
家は4人のご兄妹で受け継いでいるため、それぞれの考えもあります。
次の世代にとっては、この家との関わり方もまた違います。
維持費や修繕、災害への備えなど、現実的な課題も少なくありません。
「どのような形で残していくかは、まだ分からない」
それでも、庭の草を取り、建物に風を通し、人を迎える。
そうやって今できることを積み重ねることで、旧市原重治郎邸は今日まで残されてきました。
一軒の家を残すということ

今回お話を伺って感じたのは、旧市原重治郎邸の魅力は、建物の古さや美しさだけではないということです。
ここで暮らしてきた人がいて、その記憶を受け継ぐ人がいる。
そして家を開いたことで、昔を知る人、初めて訪れる人、子どもたち、地域で活動する人たちとの新しいつながりも生まれています。
博物館でも、単なる保存建築でもなく。
人が訪れ、使い、感じることのできる「活きた家」として残していきたい。
そのための答えは、まだ決まっていません。
だからこそ旧市原重治郎邸は、これからも人との出会いを重ねながら、その先の形を探していくのだと思います。
秋のオープンガーデン開催のお知らせ
旧市原重治郎邸では、11月15日(日)に秋のオープンガーデンが開催されます。
当日は庭園と母屋の一部が公開され、お座敷でお抹茶と季節の和菓子を楽しめるほか、庭師さんによるカップ盆栽づくりのワークショップも予定されています。
歴史ある建物や庭の魅力を、実際に感じられる貴重な機会。
ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
開催概要
日時:2026年11月15日(日)10:00~16:30
内容:
- 庭園・母屋の一部公開
- カップ盆栽づくり(500円~/1回約50分・定員4名)
- お抹茶と季節の和菓子(500円)
- 抹茶ラテと季節の和菓子(600円)
※駐車場・駐輪場はありません。ペット同伴不可(ベビーカー可)。建物内はバリアフリー非対応です。
旧市原重治郎邸
住所:横浜市神奈川区白楽118
Instagram:https://www.instagram.com/jujirotei/
※最新情報は、マイペースにInstagramでご報告があるとのこと。
※DMは使用していないそうですのでご注意ください。
※旧市原重治郎邸は、2018年3月27日付けで「横浜市認定歴史的建造物」に認定されました。

この記事を書いたひと
ゆり
六角橋での文化的な活動のアクティブさに魅力を感じ、お散歩しています。
大の甘党でチョコレート派閥に属しておりますが、お茶やコーヒーも大好き。
ちなみにカレーも甘口派です。
よろしくお願いします。


